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技術情報
5G元年、2020年に期待できるデバイスは?

企画・運用委員会 松村直哉

4G(LTE)はiPhoneの登場から現在に至るまで、スマートフォンがその時代を牽引したと言えます。一方で5Gに関する記事が毎日のように報道されていますが、「これぞ5Gのデバイス」といったものはまだ現れていないのではないかと思います。
このような状況で一つの可能性を感じるのは「ヘッドマウントディスプレイ(以降HMD)」ではないかと思います。5Gの利活用の中でHMDを使ったアプリケーションが色々とでてきており、その技術と課題についてご紹介します。

HMDを使ったアプリケーションとしては、大きくは「リアルな映像を利用するもの」と「ツールによって作り出される仮想空間によるもの」があると思います。
また、リアルな映像を利用する場合でも、「リアルタイムに伝送する場合」と、「映像を蓄積する場合」の大きく二つに分かれると思います。
まとめると以下のようになると思います。

① リアルな映像をリアルタイムに伝送
② リアルな映像を一旦、蓄積しノンリアルタイムに伝送
③ バーチャルな世界の映像を伝送

リアルタイムに伝送するケース①の例としては工事現場のブルドーザーを遠隔地からHMDにて操縦するといったものが考えられると思います。

映像を一旦、蓄積しノンリアルタイム伝送するケース②の例の一つとしては、観光地を巡る映像を蓄積し、その映像をあたかも旅行をしたかのように体験できる、という利用方法があります。このケースは蓄積した映像を加工することでバリエーションが増えると思いますが、今回はシンプルなケースに留めます。

最後に、バーチャルな世界の映像を伝送するケース③、この利活用の主戦場はフルCGで制作された映画やゲームになると思います。映像を構成するためのUnityに代表するソフトウェアの進化によって複雑な映像を比較的容易に開発することができる時代が来ているといえます。

HMDの用途はさまざまですが、今回は①のリアルな映像をリアルタイムに配信するアプリケーションにフォーカスして調査してみました。
シンプルなリアルタイムに映像配信する構成は以下となります。カメラと通信路とHMDです。

実際にはこのシンプルな構成に考えなければいけない技術要素がたくさんあることがわかります。
① カメラの解像度(4K、8K)、視野角(180度、360度)、単眼or複眼カメラ
② 伝送路(特に無線区間)の必要となる速度と方式(Wi-Fi、5G、など)
③ 映像を圧縮(H.264、H.265等)による遅延の考慮
④ 180度、360度カメラで撮影した映像の補正(HMDに対応した補正)
⑤ HMDを利用する場合、単眼カメラから複眼データへの変更(複眼カメラの利用も)
⑥ HMDの解像度(4Kや8Kの映像を画質を落とさずに見ることができるか?)
⑦ カメラとHMDとの間をつなぐためのプロトコル(WebRTCなど)
まだまだ、細かい技術要素もあると思います。 今回は以下の2点について説明していきたいと思います。

・複眼カメラ

VR180というGoogleが策定した以下のWebに掲載されているVR用の規格があります。このカメラは両目を疑似した複眼で作られているため、HMDを使い簡単に3Dの世界を体感することができます。単眼の180度カメラで撮影した映像をソフトウェアにてHMDの複眼ように変換する技術もあります。
https://arvr.google.com/vr180/

・4K、8K映像の伝送レート
8Kの非圧縮データの伝送レートは60fpsで約48Gbps、4Kの非圧縮データでも約12Gbps必要となります。5Gの理論的な最高伝送速度については、以下の総務省)新世代モバイル通信システム委員会、技術検討作業班における検討状況の資料に書かれている、10.1Gbps(下図)です。カメラからネットワークへのアップリンクの速度は4:1(DL:UL)となり、非圧縮の4Kデータは5Gですら伝送することが厳しいということがわかります。
https://www.soumu.go.jp/main_content/000536171.pdf

今回は2つの要素のみをご紹介しましたが、リアルな映像を伝送するためには5Gの技術要素である低遅延があげられると思います。但し、高精細な映像を伝送しようとした場合、4Kの非圧縮伝送は厳しく、どうしてもH.265のような圧縮技術を利用する必要がでてきます。当然、この圧縮処理に時間を要するためネットワークとこの処理時間を加味してシステム全体の設計をする必要が出てきます。

この調査をする中でスマホにアタッチメントを付ける簡易なHMDを試してみましたが、スマホのディスプレイでは解像度に限界があり、期待した映像を得ることはできませんでした。この意味でHMDの専用機というのは一つのデバイスのカテゴリとなるものと思います。また、映像の圧縮処理、これによる遅延、高精細を必要とする現場のニーズなどを解決することで、5G元年となる2020年後半には複眼カメラや高精細のHMDなどの登場により新たな世界が広がるものと思います。


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