海外情報
米国キャリアの発表で知る5Gのがっかり感
岩本賢二
昨今、5Gブームと言って良いほどの盛り上がりですが、米国で先行して行われている5Gサービスやそれに関わる発表を見る限り、5Gの未来はそれほど刺激的なものではなさそうです。これらの情報をもとに著者の見解を述べてみようと思います。
米国のUS Cellular社は2020年の初めにアイオワ州とウィスコンシン州で５Gの展開を開始予定です。そんな中、US Cellular社のCTO Mr. Mike Irizarry氏は600MHzバンドを5Gに利用すると語っています。
このメルマガでも以前から書いていますが、5Gで主に利用される周波数帯は28GHzのミリ波です。ミリ波は広帯域の通信が可能ですが、直進性が強すぎて回り込まないため、動く相手に安定した通信を行うことが非常に困難で、かつ物陰ではつながりにくい特性があります。例えば通話中に道の角を曲がると突然切れるだけでなく、体の向きを変える程度でも切断される可能性があります。
そのため、米国で先行して開始された５Gサービスはことごとく固定無線サービスです。ポケットWi-Fiのような機器が5Gに接続してWi-Fiアクセスポイントとして働くものです。これは窓際に固定設置する必要があります。一般的には5Gは「超高速・大容量通信」「多数同時接続」「超低遅延」と謳われています。しかしそれを実現するためにミリ波を利用することが前提ですが、そうなるとカバレージや安定したサービスを維持できないという大きな問題を抱えています。
今回US Cellularは5Gの新しい周波数として600MHz帯を10×10のMIMOで利用すると言っています。これは既存のLTE-Advancedよりも高速ですが、これまで5Gとして謳っているようなGbps単位の速度を出すことはできません。唯一新しい点としては、この600MHzを既存のLTEでは利用せずに5G専用で利用するということだけです。
US Cellular社は5Gを実現するにあたり、ほかにも3.5GHz帯や24GHz帯、28GHz帯等を利用しようとしています。環境や使い道によりこれらの異なる帯域をうまく組み合わせることになると考えられます。
ミリ波の使い方としては固定ワイヤレス用の5Gサービスとして登場すると前出のIrizarry氏が語っています。これは既にSprintやT-Mobile等が行っている5G版の固定無線サービスと同じということです。ミリ波を携帯端末で利用できるシーンはかなり限られた環境のケースだけになりそうです。
すでにノキアを始めとする大手メーカーが5G固定無線サービス用のルータを発表しています。
ノキア製 5G固定無線サービス用ルータ（動画）
さんざん5Gはすごいぞとアピールしてきたにも関わらず、ミリ波を携帯端末向けのアクセスサービスに利用しない場合、LTE-Advancedよりもすこし速い程度だということになります。
目玉だったミリ波によるGbps級の「超高速・大容量通信」の携帯アクセスサービスはかなり限定された環境になりそうで、当面固定無線サービスが中心になりそうです。
冷静に考えると今日の時点でも、Wi-Fi技術で以下のことが可能です。
・Wi-Gigによるミリ波通信で数Gbpsの通信（固定無線サービスが可能）
（Wi-Gigはリビングルーム程度ではアクセスとしても利用可能！）
・Wi-Fi6による5GHz通信で数Gbpsの通信（アクセスサービスが可能）
・Wi-Fi6による多台数接続通信（多くの端末を収容することが可能）
・11nによる2.4GHz通信で数百Mbpsの通信（汎用アクセスサービス）
・Wi-Fi Halowによるサブギガ帯による長距離通信（IoT向けにサービス）
・Wi-Fi本来のエッヂ構成による低遅延通信（制御用などの低遅延サービス）
結局5Gで謳っている「超高速・大容量通信」「多数同時接続」「超低遅延」は既に皆さんがWi-Fiを利用して経験できてしまうことばかりだったと気づかされます。
5Gが登場してきて、唯一変わるのは携帯電話会社の提供する「固定無線サービス」が一般化するというくらいです。ミリ波による大容量通信を携帯端末からどこでも利用できる様になるのは一体いつになるのでしょう。
参照：
https://www.fiercewireless.com/operators/u-s-cellular-cto-touts-clean-600-mhz-channel-for-5g
https://www.nokia.com/networks/solutions/fastmile/#overview
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