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海外情報

イギリス「ガトウィック空港閉鎖事件」にみるドローンの脅威

岩本賢二

昨年12月19日、英国ガトウィック空港がドローンの侵入により36時間もの閉鎖を余儀なくされるという事件が起きました。無線に関わる重大な事件で、今後日本でも同様のケースが起きる可能性が充分にありますので調べてみました。

事件の経緯

2018年12月19日夜、英国のロンドン中心部から南に50キロ弱にあるガトウィック空港の敷地内へ複数のドローンが侵入しました。これらのドローンは10回以上にわたり、滑走路を横切り、警察官が近づくと姿を隠すという行動を繰り返しました。飛行するドローンが小さくても離発着の航空機と接触すれば重大な事故(例えばエンジンへの吸い込みによる故障など)に繋がる恐れがあるため、管制塔は全航空機の離発着を停止せざるを得ませんでした。

当時、空港には既に大手ドローンメーカーであるDJI社が提供する無線によるドローン検知システムAeroScopeが設置されていましたが、対象のドローンはDJI社が検知できないタイプのドローンであったため、検知が不可能でした。唯一の頼みの綱である目視による検知も、事件発生が夜間だったため、不可能でした。

その後、夜が明けて明るくなってくると、目視による検知が可能となりジャミングガンなどによる対策が出来ると思われましたが、飛行しているドローンは複数で、しかも小さく高速で高度数十メートルを飛行するため、事件を解決することが出来ませんでした。その結果、滑走路は21日午前6時半まで閉鎖されることとなりました。

目視による検知が困難な小さなドローン

その後、滑走路はドローンが居ないことを確認して再開しましたが、当日午後5時過ぎに再びドローンが目撃され、滑走路は再度閉鎖へと追い込まれました。

最終的には22日に滑走路は全面再開しましたが、この3日間の閉鎖で計1000便以上が欠航または目的地変更となり、約14万人の利用客の足に影響が出ました。

ガトウィック空港はロンドン・ヒースローに次ぐ英国で2番目に大きな空港です。2016年の利用者数は4千3百万人を超え、同じ年の成田空港3千9百万人を大きく上回る巨大空港です。小さなドローンによる妨害がこれだけ甚大な経済的損失をもたらすと誰が予想したでしょうか?

ガトウィック空港の全景

事件の背景

実はこの事件の背景として、海外メディアが報道している情報を見つけました。

事件の解決が自力では不可能と判断した英国警察は英国軍に協力を要請しました。要請を受けた英国軍はこのような事態に備えて準備していたラファエルアドバンストディフェンスシステムズ製のDrone Domeを空港に持ち込みました。Drone Domeは自動追尾型高性能光学カメラ、一次レーダー、パッシブ無線ドローン検知、ジャミングなどで構成されており、半径3~5キロ内を飛行するドローンを検知し、ジャミングにより無力化することが可能なシステムです。この中でも特に重要な機能がパッシブ無線ドローン検知システムとジャミングシステムですが、これはNetLine社が開発したDroneNetという製品がDrone Domeに組み込まれて利用されています。

事件の解決はその後、機密扱いとなり詳細は報道されなくなりましたが、ガトウィック空港は7億円を投じて、このドローン対策システムを導入することを決めたようです。つまり、これらのシステムにより無力化が成功したことが推測されます。

無線による考察

ドローンには無線によるリモート操縦とGPSによるプログラム飛行のモードが存在します。リモート操縦モードでは電波が途切れるとドローンはその場に着陸するか、指定された場所にGPSで戻ります。一方GPSによるプログラム飛行についてはGPS電波が受信出来なくなるとその場にとどまるか、ふらふらと墜落します。つまり、ドローンを無力化するには、そのドローンが利用している操縦周波数、もしくはGPSの受信を妨害する必要があります。

これらのドローンをどのようにして検知するかという仕組みですが、リモート操縦の場合はその操縦に利用されている電波を監視することでドローンの存在を検知できます。一方GPSによるプログラム飛行の場合は電波による検知が困難に思えますが、実際には何らかのテレメトリシグナルが発信されているため、その電波を補足することでドローンを発見できます。

しかし、単にその周波数を検知するだけだと、ドローン以外がその周波数を利用している場合でも検知アラートが鳴ってしまうと言う問題が起きてきます。

今回ガトウィック空港で利用されたNetLine社のDroneNetは検知されたシグナルパターンにより、それがドローンであるかどうか、さらにどの機種であるかを見分けることができます。更にそのドローンが利用している周波数をピンポイントでジャミングすることが可能であるため空港のような電波障害を懸念する環境でもドローンを無力化することが出来るようです。

私がメーカーに確認したところ、たとえドローンがWi-Fiを使っていたとしても、ドローンから出るWi-Fiのシグナルにはシグネチャーと呼ばれる特徴があり、ドローンであるという判断が可能だそうです。また、改造されたドローンでも利用される可能性のあるあらゆる無線モジュールが既にデータベース化されているそうで、「改造型」のドローンであるという検知をするそうです。

まとめ

今後オリンピックに向けて日本でもセキュリティの強化が成されていると思いますが、このような海外の事例は非常に参考になると思います。今回は人的被害がありませんでしたが空港が3日間に渡って利用不能となる事態は大きな経済的損失となります。

またドローンによる航空機のインシデントは年々増加しており、今後重大な事故が発生するという可能性をはらんでいます。

英国政府が発表した空港周辺の違法飛行ドローンの数(2018年発表)

人力による対策だけに頼らず、ハイテクシステムを上手く利用してスマートに事件を未然に防いでくれることを切に願います。

参考:

https://en.globes.co.il/en/article-uk-army-deploys-rafaels-drone-dome-at-gatwick-airport-1001265876

https://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-6519211/The-2-6m-Israeli-Drone-Dome-Army-used-defeat-Gatwick-UAV.html

https://www.dailymail.co.uk/news/article-6521573/Three-pronged-rooftop-attack-drone-reveals-hard-bring-one-devices.html

https://www.bbc.com/news/uk-46787730


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