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特別インタビュー
NTTドコモ 副社長 阿佐美 弘恭 氏

「5G時代のスマートフォン」で新たな世界が始まる
5Gと人々をつなぐ役割がWi-Fiに

ドコモで新たにCDOに就任し、デジタル・トランスフォーメーションを推進する阿佐美弘恭副社長に、お話を伺いました。

阿佐美氏は、5G、IoT、AIのデジタル技術の役割が極めて大きいことを述べ、ドコモがすでにサービス変革、組織変革の緒につき、新たな価値創造に向けて動いていると明らかにしました。

また、「5Gでより豊かな未来へ」というスタンスで5Gを推進していくことを述べ、「5G時代のスマートフォン」を生かすためにもWi-Fiの果たす役割が大きいと強調しました。

 

デジタル・トランスフォーメーションを進める

――デジタル・トランスフォーメーションということが言われています。IoT、5G、AIなどの新たな技術の登場によって、これから経済・社会はどのように変化していくとお考えですか?

阿佐美副社長 NTTグループは今年8月、「NTTグループにおけるCDOの設置について」と題して報道発表を行いました。

ドコモでは私が新たに就任することになりましたが、既にCIO、CISO、CPOを拝命しており、CDOとはどのようなものかを確認しました。
いろいろ調べてみますと、まさにご質問にありました「デジタル・トランスフォーメーション」(DX)を推進する役目を担う人だったわけです。

そもそも「デジタル・トランスフォーメーション」と何なのか? 解説や定義をまとめてみますと「デジタル技術の活用により、現状を変革するとともに、新たな価値を創造すること」と理解することができます。

――ドコモのCDOとして、どのようにデジタル・トランスフォーメーションを推進していくのでしょうか。

阿佐美 昨年、ドコモは「Beyond宣言2020」と題して5G時代に向けたドコモの中期的ビジョンを発表し、現在、取り組んでいる最中です。

2017年4月27日 2017年3月期決算説明会 中期戦略2020「beyond宣言」

 

この取り組みはデジタル・トランスフォーメーションそのものであり、AI、5Gやビッグデータ等のデジタル技術を駆使することにより、直接的には、①情報の共有化(統合)、②判断の迅速化(最適化)、③状況の可視化(見える化)を図り、これらを通じてまさに、①顧客・パートナーとの関わり、②各種業務プロセス、③社員の働き方を大きく変革し、将来に向けて新たな価値の創造をして行こうとするものです。

ドコモ視点からデジタル技術を俯瞰しますとネットワークやデバイス等の主にハード面の技術革新、また実際に人間が使うことを想定した時のUIやセンサー等のソフト面の技術開発があり、これらのバランスのとれた広範囲にわたる進化が必要です。

一般論としてICTの進化は国の競争力向上、社会的課題の解決、地域の活性化(創生)、産業の構造改革、企業活動の効率化、そして個人生活の付加価値向上等、多岐にわたる領域で期待がされていると思います。

結果として人々の生活が「より便利・お得に!」、「より効率的に!」、「より迅速に!」、「より正確に!」、「より安価に!」、「より多彩に!」、「より安心・安全に!」………なって行くと思われます。

 

このような中、ドコモは、今述べた「Beyond宣言の着実な実現」、「5Gによる新産業創出」、そしてこれらの取り組みを支える「事業基盤の変革」が事業運営における重要な課題認識となっています。

――事業者としてのドコモの在り方、顧客との関係も変化していきますね。

阿佐美 現在、モバイル業界は事業者間の顧客争奪戦となっていますが、そこにマーケティングモデルのまったく異なる事業者がサービス軸(コンテンツ)やネットワーク軸(MNO)から参入してきており、弊社も大きな変革が求められています。

このような競争の激化そして競争の多様化に対して、現状のリアルなショップに来店する顧客をターゲットとした「リアルマーケティング」に加え、Webやネットワークを介して顧客一人一人に適した対応(one-to-one)を行う「マイクロマーケティング」が必要となっています。

また、顧客の定義も、日々顧客争奪に明け暮れる回線サービスの「契約者」から継続的な顧客拡大を可能とする「dポイント」クラブの「会員」へのシフトも必要になっています。

そして、弊社が主体となって新たなサービスを作る時代から多数のパートナリングによる「協創」(「+d」の取り組み)が重要となっており、これらの変革なしでは将来の展望を描くことはできません。

モバイルの進化と4G、5G

――こうした変革のなかで、モバイルの進化の役割というものは基軸の一つであり、とても大きいですね。

阿佐美 モバイルキャリアにとって4G時代は、ネットワーク(4G)、サービス(映像ストリーミング)、デバイス(2Kの5インチディスプレイ)の3つがバランス良く実現され、スマートフォン(タブレット)を利用してフルHDの高精細動画(映画、アニメ、投稿)を見たい時に見たい場所で視聴できる環境を構築することができました。

単にリッチコンテンツ(映画、テレビドラマ等)をダウンロードまたはストリーミングして視聴するモデルだけでなく、YouTubeに代表されるように一般の人々が自分で撮影した動画をアップロードして多くに人に視聴してもらうような利用方法もブレイクし、多くのSNS(Facebook、Twitter、TikTok等)で動画の投稿機能が採用され利用されています。

これから迎える5G時代でも4Gで作り出されたムーブメントは加速することが予想されるとともに5Gの特徴とされる高速・大容量、低遅延、同時多接続の各機能が新たな用途・利用シーンを作り出すことが想定されます。

5Gはこれまでの「夢物語」から既に「現実レベル」にシフトしてきており、IR等においても投資家の皆さんは興味を持たれ、ビジネスベースの質問が多くなっています。

2020年の商用リリースに向けた体制強化のため、2018年7月に経営企画部に「5G事業推進室」を設置し、5Gの取り組みについてネットワークからデバイス、サービス等、必要な取り組みを全社横断で陣頭指揮をとることとしました。

「5Gスマホ」の3つの役割

――5Gでは、ビジネスモデルが変わるのではといわれています。

阿佐美 既にドコモでは昨年から5Gの特徴を活かしたサービスを開発することを目的に企業向けに「5Gトライアルサイト」を創設し、多くのビジネスパートナーとの5Gを利用したサービス実証に取り組んでいます。

また、2018年2月からドコモの5Gについての情報共有及び各種実証実験を行う場として「5Gオープンパートナープログラム」を提供し。既に1500社を超えるビジネスパートナーの皆さまに登録をしていただいています。

企業とのコラボレーションを先行する一方、コンシューマに向けた5G時代をどのように描くかが重要となっています。コンシューマの多くが手にするスマートフォンでどこまで5Gの素晴らしさを実感することができるか、いわゆる「5Gスマホ」の取り組みです。

――5Gスマホになると、これまでとは使い方が変わってきますね。

阿佐美 5Gで提供する上述した機能を利用者に実感・体感していただく方法としてはこれまでのように、①スマートフォン単体で提供することに加え、②スマートフォンとアクセサリーの組合せ、さらに③スマートフォンと周辺機器との組み合わせにより多彩な利用方法を考えることが重要だと思います。

②③はスマートフォンをネットワークのハブとして捉え、接続されるアクセサリーや周辺機器を介して付加価値を提供する方法です。

 

ICT関連のワイヤレスデバイスの進展を振り返りますと、パソコンやプリンタの情報機器、ゲーム機、VODを視聴するためのターミナルそしてスピーカやAV・エンタメ関連機器、スマートフォンやタブレットの通信機器、そしてAI端末等のインターネットに接続することを想定したデバイスの殆どはWi-Fiを介して接続されています。

このように利用者が利用するデバイスの大半にはWi-Fiが装備されています。これらの機器を提供する事業者側サイドに立ってもLTEや5Gのキャリアネットワークのインタフェースを装備するよりWi-Fiを装備する方が技術的にも簡易であり、機器のバリエーションも拡大することが可能です。

このようなトレンドは5G時代の「5Gスマホ」の在り方を示唆するものであり、5Gネットワークへの接続は「5Gスマホ」が担い、Web閲覧やメール等の老若男女に共通する機能以外は個別のアクセサリーや周辺機器により実現するコンセプトです。
これらのアクセサリーや周辺機器との接続の大半はWi-Fiにより行われます。

新たな付加価値創造へ、Wi-Bizの役割に期待

――無線LANビジネス推進連絡会(Wi-Biz)の今後の役割についてお聞かせください。

阿佐美 今、述べましたように、キャリアネットワークとWi-Fiはそれぞれのジャンル(市場、技術、標準化)で個別の進化をしている一方、日常生活におけるWi-Fiの重要性は、キャリアネットワークの進化に合わせて増大しているとともに相互の距離がより近くなっています。

特に5G時代では、5Gが有する豊富な特徴・機能を使い顧客の多様なニーズに対応するためには「5Gスマホ」が高速・大容量のハブ機能としてWi-Fiインタフェースを介して多様なデバイスと接続することにより新たな付加価値を提供することが期待されています。

多様化する顧客ニーズにデバイスメーカーが積極的に対応できるためにWi-Fi業界としての技術革新や情報共有がより重要となり、そして通信事業者とのさらなるコミュニケーションが重要となると考えます。Wi-Bizの皆さまには是非、そのような役割をしていただけることをお願いしたいと思います。


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