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海外情報
イスラエルのキブツに見る柔軟なビジネス

岩本賢二

これまで、海外の通信業界の情報を書いてきましたが、今回はイスラエルの「キブツ」という集団農場共同体とそこにおけるビジネスについて紹介します。

安全で治安の良い主要都市

2018年3月中旬、イスラエルのキブツに訪問してきました。日本からイスラエルへは直通便が無いため、ヨーロッパや韓国経由で行くことになります。

イスラエルは戦争をしており危険な国というイメージが強いのですが、実際には軍隊が常駐しているような場所はガザ地区のような一部区域のみで、テルアビブをはじめとする主要都市のほとんどは戦争の影響を受けて居らず安全です。また西岸地区に分離壁を建設したことが有名ですが、この壁が建設された後から現在に至るまで国内でのテロは起きて居らず、ヨーロッパよりも安全になっています。

さらに教育レベルと民度が高いため、治安も非常に良く都市部ではスリや置き引きに会うことはほとんどありません。深夜の2時過ぎにテルアビブのビーチから町の方へ水着の女性が一人で歩いているのをよく見かけるくらい治安が良い所です。戦争と治安は別の物であることを実感出来ます。

 

今回私が訪問したArava instituteというキブツは死海の120kmほど南にあり、テルアビブからはネゲブ砂漠を通り、ひたすら南下するとたどり着きます。
途中砂漠の渓谷を抜けるのですが、ピクニックに来ていた子供が崖から滑落したということでヘリによる救助に遭遇しました。

集団農場共同体からハイテク産業の拠点に

ここでキブツについて紹介をしたいと思います。キブツは1909年にロシアでの迫害を逃れた若いユダヤ人集団がガリラヤ湖の南岸で設立したものが最初のキブツと言われています。

生産的自主労働、集団責任、身分平等、機会均等の4大原則に基づく集団生活を行う集団農場共同体です。
その後、各地で迫害から逃げ延びたユダヤ人が参加し人口が増大、学校、図書館、診療所なども持つようになりイスラエル建国の柱となりました。しかし、現在はその役割が変わりハイテク産業の拠点となっています。

このキブツからはイスラエルの代表的な多くの政治家を輩出しており、その一人が初代首相のベン・グリオンです。彼は首相退任後も、不毛のネゲヴ砂漠に入植し開拓することでパレスチナのアラブ人達の反発を最も抑えられると考え、彼自身がネゲブ砂漠のキブツに移り住み、その後開拓を続けました。

 

今回訪れたKeturaにあるArava Instituteというキブツですが、現在100名以上が在籍しており、昔の共同農場という役割が終わり、農業研究所のような施設となっています。なんと農場の東側はヨルダン領に隣接しています。

このような砂漠の真ん中の水も電気も入手が難しい場所で「農場」を経営しているということに驚いたのですが、水は地中奥深くから井戸で汲み上げているそうです。
しかし、この地域の地下水は塩分を多く含むため、脱塩装置を利用しています。また塩分の濃度に応じて適切な作物に供給することで節約しています。

ソーラパネルの広がりとナツメヤシ

また生活や脱塩のための電力は大規模なソーラーパネルで賄っています。
以前このキブツに移り住んできた米国人が砂漠にソーラーパネルを設置することを思いつきましたが、その当時の法律ではソーラーパネルは屋根の上に付ける事しか許可していませんでした。長期に渡るロビー活動の末、砂漠の地表にソーラーパネルが設置できるようになりました。

今では周辺の町にも電力を供給しており、このソーラーパネル事業には600億円以上の投資があったそうです。このパネルには掃除用のロボットが付いており、定期的に表面の砂を払い落とし、そのロボットの電力そのものをソーラーパネルで動かしています。

 

イスラエルの名産であるナツメヤシの実=デーツはこのようなキブツで生産されています。
ナツメヤシは多くの水が必要なのですが、水を無駄にしないように多くの工夫がなされています。

一つ目は前に書いた塩分を含む品質の悪い水を提供するという方法です。ナツメヤシは塩分濃度の高い水でも育つそうです。
二つ目は黒いチューブを農場中に張り巡らせて、点滴方式で根元にだけ水を与えるという方法です。

このようにして育てられたデーツは必要最小限の水のおかげで味が濃くなり高品質のデーツとなるばかりで無く、無駄な水が無いため周辺に雑草が育ちにくく病原体も入ってきません。結果的に無農薬で育てることが出来ます。

アルガンノキ栽培とヘマトコッカス藻類のプラント

ナツメヤシは背が高く、収穫には高所作業車を使うなど手間が掛かるので高齢者による農場経営のために、新しい作物の栽培も研究していました。それがアルガンノキという植物です。

この植物は高く育たない広葉樹なのですが、収穫の際、種子は自然に地面に落ちてくるため、高齢者でも地面の種子を集めるだけで、しかもあまり世話をせずに少ない水で育てることが可能です。
このアルガンノキの種子からはアルガン油という高級な食用油が生産されます。

 

このキブツでは農場から農業研究所へと発展を遂げたわけですが、その延長で現在大きな収入源となっているものがあります。次の写真を見て何か分かりますか?

 

なんとこれはアスタキサンチンの原料となるヘマトコッカス藻類の栽培プラントです。
元々は養殖の鮭を赤くするための餌として栽培を始めたのですが、ヘマトコッカス藻類に含まれるアスタキサンチンという色素には高い抗酸化作用があることが分かり、今ではサプリメントや化粧品として多くの需要があります。

日本へも多く輸出されているようで以下のようなWebサイトがありました。
http://www.nihon-yakuhin.co.jp/axime-05h/
灼熱の砂漠にガラスパイプを張り巡らせて、パイプの中に淡水とヘマトコッカスを入れて循環させることで、太陽のストレスでヘマトコッカスはアスタキサンチンを大量に生産します。

イスラエルはキブツから始まりましたが、現在はハイテク分野で有名になっています。人口が800万人の小さな国ですがハイテクベンチャー企業が生まれる数が米国に次いで世界第二位の国となっています。

そのような背景の中、以前のキブツの役割は終わり、淘汰されるかに見えたのですが、時代の流れに柔軟に対応して現在でも利益を生む組織として存続しています。
このようなアイデアは日本の農業にも当てはまるのでは無いかと思いました。

参考:
http://arava.org/
http://www.temasa.co.jp/html/user_data/kibbutz.php
http://www.nihon-yakuhin.co.jp/axime-05h/
https://www.google.co.jp/maps/


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