2017 Tokyo Wi-Fi Summit 講演
「A 
Vision of a Wi-Fi World」 Wi-Fiの現在と2021年

Wi-Fi Alliance マーケティング担当Vice President ケヴィン・ロビンソン氏

7月25日に開催された「2017 Tokyo Wi-Fi Summit」において、Wi-Fi Alliance マーケティング担当Vice President ケヴィン・ロビンソン氏から講演が行われました。
「A Vision of a Wi-Fi World」と題した講演の内容を紹介します。

 

ご来場頂きありがとうございます。
Wi-Fi業界の活動や技術革新が活発な日本の東京で講演を行うことを楽しみにしてきました。

本日は、Wi-Fi AllianceがWi-Fiの今後についてどのような展望を描いているかお話しします。
本日のトピックですが、まず、Wi-Fi Allianceについて簡単に紹介させて頂いた後、現在と2021年のWi-Fiについてお話します。ここでは現在、Wi-Fiが提供しているコネクティビティが、技術の進展により2021年に向けて様々なユースケースをもたらすことをお話します。

次にWi-Fiの幅広い役割について、現在あまり語られていないような業界でもWi-Fiが利用され、世界中の経済を支えていることについてお話しします。

最後に、Wi-Fiが既に5Gのコネクティビティを提供していることについてお話をします。現在、5Gについては業界やマスコミでも随分と取り上げられていますが、Wi-Fiが既に5Gのビジョンのかなりの部分を実現し、次世代コネクティビティエクスペリエンスを実現するために重要な役割を果たしていることを、多くの人がまだ気づいていません。

Wi-Fi Allianceについて

Wi-Fi AllianceはWi-Fiをユーザーに届けるワールドワイドな企業のネットワーク組織です。
Wi-Fi Allianceの重要な取り組みの1つは、企業のコラボレーションに向け効果的なプラットフォームを提供することです。業界が一堂に会し、エンドユーザーの日常生活に真の意味で影響を与えるテクノロジーを実現していきます。そのために、我々はWi-Fi認証プログラムを提供しています。
デバイスのブランドに関わらず相互接続性を担保することは、エンドユーザーへ、素晴らしいエクスペリエンスを提供すると同時に、業界の成長をもたらします。

このエコシステムは700社を超え、一つのビジョンを共有しています。それは、我々のミッションステートメントにある「あらゆる場所で全ての人とモノをつなぐ」というものです。
そして驚くことに、我々のこのビジョンの実現は、そう遠くないところまで来ています。現実にWi-Fiは全てのモノと全ての人を繋げる数少ない技術の1つになっています。

さて、Wi-Fi Allianceの多くの活動により、Wi-Fiはハイテク時代の最大のサクセスストーリーの1つになりました。Wi-Fiと同等のメリットを提供する技術は他に多くはありません。Wi-Fiはエンドユーザーへ深く浸透しています。
あるメンバーが空港で働いている女性職員から「Wi-Fiは人生だと」言われたそうです。実際、そのような言葉を聞くと驚くかもしれませんが、その方は海外で家族や子供と離れて仕事をしていたため、Wi-Fiが彼女と家族の絆を支えるものだったのです。

Wi-Fiの現在と2021年

現在、世界中で80億台のデバイスが稼動しており、地球上で一人1台を超える数にまで達しました。
データトラヒックを見てみると、Wi-Fiはインターネットトラヒックの半分以上を占めています。Email、動画、写真の半分以上が、Wi-Fiを介してインターネットに送られています。

2021年までにWi-Fiチップの出荷数は40億を超え、世代交代も順次進むものと見ています。
現在、大半を占めているのは802.11acですが、今後一年以内に次世代の802.11ax/WiGigに変わって行きます。

Wi-Fiが普及している分野として、まずはWi-Fiが始まった家庭では、現在8400万台以上のWi-Fiスマートホームシステムや製品が普及しています。
先ほどIoTの話が総務省の渡辺局長からありましたが、Wi-Fiは既にIoTのベースとなるコネクティビティを家庭で提供し、革新的なスマートホームシステムを実現しています。

さらに、モバイル分野での利用も活発です。モバイルネットワークはかなりWi-Fiに依存しており、モバイル/セルラートラヒックの6割以上がWi-Fiにオフロードされています。
いくつかのモバイル事業者はさらにこの比率が高く、アメリカのAT&Tもその1つです。
より良いモバイルエクスペリエンスを追求すると、移動が多いユーザーは移動・静止を繰り返すたびに、効果的にWi-Fiへオフロードを行い、オフロード比率が高くなります。

次に、ホットスポットですが、現在は9400万箇所で提供されています。

比較的新しい分野としては、自動車分野が挙げられ、既に1700万台のWi-Fiコネクティッドカーが存在しています。一般的な家庭やモバイルホットスポットのようなブロードバンドのコネクティビティを提供するだけではなく、車載インフォテイメントなどでの利用が増えています。
特に私が驚いたのは、Wi-Fiが実際に自動車のシステムとして利用されていることです。
昨年のCESで、アウディは有線で繋ぐより費用対効果が高いことから、車載のセンサとシステムをWi-Fiで繋いでいました。

2021年の予測について話をすると、家庭におけるスマートホームシステムは爆発的に増え5億台近くになると予想されます。
また、5Gの技術がWi-Fiによるオフロードを下げるという意見もありますが、逆にWi-Fiによるオフロードは増加すると予想されます。
ホットスポット、自動車においてもその数は増加し、自動車に至ってはコネクティッドカーの数は10倍以上になると予想されます。

Wi-Fiの知られざる幅広い役割

企業における典型的なWi-Fiの利用メリットとして、インターネットの利便性を高めることが上げられますが、それ以外の面でもこれまでとは違う展開があります。
様々なビジネスセクターがWi-Fiに依存しているなか、Wi-Fiのコネクティビティに大きく依存している企業の例をいくつか紹介します。

UPSやFEDEXも同様ですが、アマゾンの物流事業はWi-Fiに大きく依存しています。かつてUPSに勤めている人から聞いた「Wi-Fiがなければ小包1つも送ることはできない」と言う言葉が、Wi-Fiがいかに経済の中で重要な役割を担っているということを表しています。

Facebookも同様で、彼らがユーザーに提供してきたものは、Wi-Fiに大きく依存してきたといえます。また、Facebookは近い将来、動画ベースになると言っており、Wi-Fiの高速なコネクティビティ無しにはビデオコンテンツでのフィードは実現しないでしょう。
Wi-Fiは様々な場所で様々な人にメリットを提供しています。

通信事業者やサービスプロバイダーは、トラヒックの管理や、容量拡大、サービス拡充のためにWi-Fiに頼ってきました。この良い例が、移動体事業者におけるWi-Fiによるトラヒックのオフロードですが、固定通信事業者にもWi-Fiでサービスを拡充しているところがあります。

アメリカの例では、単に家庭へブロードバンド環境を提供するだけではなく、個人向けIT部門として家庭内の全てのネットワーク接続を管理するサービスを提供しているところがあります。インターネットへの接続やセキュリティシステムなどのプラットフォームを家庭内へ提供し、複数のサービスを上手く組み合わせ収益化しています。

また、企業においては、Wi-Fiのマルチギガビットの高速性や低遅延により、モバイルコンピューティングで生産性を上げています。今のオフィスではWi-Fiなしには考えらません。場所を問わすコネクティビティが確保されることで、どこに行っても直ぐに同僚とディスカッションすることができます。

また、Wi-Fiのコネクティビティが確保されたホテルやショッピングセンターでも同じです。これについては、特に2020年の東京オリンピックになぞらえて後ほど話をします。

また、政府のスマートシティの取組みでは、Wi-Fiで遠隔地にある様々なインフラや市民を繋いでいます。
日本でも多くの自治体が市民にWi-Fiを提供していますが、ニューヨーク市の例では、キオスクで高速接続サービスが提供され、近くにいる人は誰でも利用できます。これ以外にも、バスの到着時間を通知したり、道に穴が開いているといった情報を市役所へ通知したりしています。

最近、南アフリカのケープタウンのイベントに参加した際に、政府から聞いた成功事例として、Wi-Fiで費用対効果が高いコネクティビティを市民へ提供しているなかで、経済的に厳しい市民が求人へ応募する際に、Wi-Fiのホットスポットがあったから申請できたという話がありました。

このように先進国でも新興国でもWi-Fiは大変重要な役割を担っており、政府におけるインフラ展開という取り組みでも欠かせないものとなってきています。

次世代コネクティビティエクスペリエンスの基盤

2020東京オリンピックでは何十万人という人が東京に訪れることになります。それは単に人の数が多いというだけでなく、この何十万人という人々が様々なデータ通信へのニーズを携えてくるということでもあります。

アメリカのスーパーボールというアメフトの一大祭典では、1箇所のスタジアムで行われる3時間のたった1試合で、12テラバイトの情報が消費されました。これは試合を見に来た人たちが家族や友人へビデオや写真を送ったためです。

東京に来る何十万人という人々と競技会場を掛け算すると、どれほどの課題を抱えているかがわかると思います。この多くに人たちのコネクティビティに対する期待は非常に高いものがありますが、来日する人々が体験を共有したいというニーズに応えるためには、高いパフォーマンスのコネクティビティが求められます。この需要を満たすためには、2020年までにマネージドネットワークの中に3万件のホットスポットを準備する必要があります。

また、単に会場だけでなく、移動体におけるオフロードや、世界各国から来日する人々のローミング対応も重要な課題です。
例えば、会場から離れた場所で、本国へ料金を気にせず電話をするためにも、Wi-Fiのコネクティビティをより良くしていくことが重要です。

最後のポイントは、世界標準への対応についてです。訪日客は自国から様々な端末を携えて来ますが、それは東欧で買ったスマートフォンや、中南米で買ったタブレット等、必ずしも日本の通信事業者に馴染みのあるものではないかもしれません。
膨大な種類の端末が日本に入ってきますが、ここで重要なのは、素晴らしいユーザエクスペリエンスを提供するためには、世界標準へ対応している必要性があるということです。

5Gコネクティビティを提供

5GにおいてWi-Fiがどのような役割を担っていくかお話しします。

2つの考え方があり、1つは3GPPの中で議論されている5G標準そのもので、Wi-Fiは5Gの一部として重要な役割を担っていくというものです。

もう一つは、あまり語られていませんが、Wi-Fiは既に5Gで提唱されている次世代のコネクティビティを実現する多くのコア機能を提供しているということです。802.11acでは通信速度や容量が上がり、認証プログラムとしてWiGigも提供が開始され、Wi-Fi技術は既にマルチギガビットクラスの通信速度を可能としています。

モバイルネットワークの低遅延化は、エッジコンピューティングやエッジストレージを可能にします。先ほどのスーパーボールの話のように、高精細映像がスマートフォンより瞬時にエンドユーザーへ同報され再生できるようになります。Wi-Fiが現在提供しているエッジコンピューティングやエッジストレージといったローカルコネクティビティは、5Gのビジョンと全く同じなのです。

そしてWi-Fiでは、ネットワークの状況変化に合わせたネットワーク制御によるユーザエクスペリエンスの向上に向け、機能強化を進めており、今後数ヶ月後もしくは2018年には実現する見通しです。本テーマについては後のセッションでお話します。

Wi-Fi CERTIFIED Vantageは標準ベースのコネクティビティ、相互接続運用性、質の高い周波数管理です。これにより事業者はAPが使っている周波数を管理・制御し、ユーザーにより良いエクスペリエンスを提供することができます。

Wi-Fiは進化を続けており、802.11axでは更なるネットワークの容量増やカバレッジ拡大が実現されます。これはWi-Fi HaLowとともに今後18ヶ月以内に実現し、5Gの技術が提供スケジュールである2020年までに、5Gの技術と共に市場に投入されます。

 

Wi-Fiは5Gと連携し2020年まで進化し続けることが担保されたように見えます。
確かに、Wi-Fiは継続した形で大きなイノベーションをもたらし、コネクティビティの技術では他に類を見ないような、人々の生活に欠かせない基盤となりました。しかし他方で、一つの問題を抱えています。それは十分な周波数帯が無いということです。

Wi-Fi AllianceのHPからダウンロードできる資料を見て頂くと分かるように、2020年にはデータ容量が周波数容量を超えます。あと2年半後で、そんな先の話ではありません。
驚くことに2020年には750MHzが、2025年には1700MHzが必要になります。地域により事情は異なりますが、一般的には周波数帯が不足してきており、特にホームユーザーは深刻です。
Wi-Fi Allianceは世界各国の政府へ、より多くの周波数帯を提供するよう提唱しており、既に欧州では追加的な周波数として6GHz帯を検討しています。

アメリカのFCCも2週間前に、6GHz帯で不足周波数の充足を検討するという文書を出しました。
Wi-Fi Allianceは日本、韓国、中国等主要な経済圏を含むアジアでも、ユーザーが容量不足に陥らないよう精力的に活動していきます。そして端末メーカからサービスプロバイダーまでWi-Fi業界全体で、この周波数問題に対して取組むことを訴えて行きたいと考えています。

 

最後に、Wi-Fiは大変大きな成功を収めており、この強さはお集まりの皆様のようなWi-Fiのリーダがあってこそだと考えています。
Wi-Fi Allianceは、業界・メンバー主体の組織体であり、成功の裏にある皆さんのご尽力に感謝致します。


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