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特別インタビュー 総務省総務審議官 鈴木茂樹様

社会・産業のイノベーションをICTの力で
インバウンド、地方創生へWi-Fiはますます重要に

 

「2020」に向け大きな飛躍が求められる2018年を迎え、総務省の鈴木茂樹総務審議官を訪れ、今年の総務行政、特にワイヤレス分野を中心とする通信行政の重点施策について尋ねました。

鈴木総務審議官は、多方面でのICTによる積極的な政策推進を述べ、なかでもIoT、5Gによる産業革新の見通しを明らかにしました。
また、Wi-Fiはこれからますます重要な役割を担うと述べ、無線LANビジネス推進連絡会の活動に期待を語りました。

 

人口減少を見据えICTの力で構造改革を

――今年の通信行政ですが、IoT、AI、5G、ビッグデータなど重要テーマが目白押しで産業界はデジタルトランスフォーメーションが課題と言われていますが、どういう方向性で進めていくのでしょうか。

鈴木総務審議官 社会全体にデジタルトランスフォーメーションの波が押し寄せて来ています。通信業界、ICT業界だけでなく、建設、農業、流通などそれこそあらゆる産業分野でネット/デジタル化の取り組みが課題となっています。

私たちはユビキタスということで、様々なものがいつでもどこでも何にでもつながる環境になると言ってきましたが、それがIoTという形に発展し、様々なデータを集めビッグデータを人工知能で分析すると、従来は難しかったことが出来るような状況になってきました。さらに、そこに5Gという新しいネットワークサービスが見えてきました。

総務省としては、従来のように単に通信業界や放送業界をどう発展させていくかだけではなくて、あらゆる産業をICTやIoTで変えていく、そのリード役を果たしていきたいと思っています。

もう少し具体的にいうと、人口減少が始まり少子高齢化が進む中で、2050年代に日本の人口は1億人を切り、労働力は8000万人以上だったのが4000万人台になると予測されています。するともう従来の仕事の仕方、生活の仕方、経済のやり方では回っていかないし、現状すら維持できないだろうと思っています。

ですから、たとえば、農業ですと従来20軒、30軒の小規模農家がやってきたところを1軒の農家がICTを使って生産性を高めるとか、コールセンターで人がいっぱい集まっていたところが、自動音声応答とかAIとかを使って人手を要らなくするとか、そういう努力で少ない人口でより付加価値を生む、あるいは人間でないと対応できないようなところに、どんどん人を振り向けていくことを進めなくてはなりません。

そうすることによって、人口減少の中でも、一人当たりのGDPを今よりも増やしていき、トータルのGDPの規模も減らないようにしていくこと、それが行政の狙いでなくてはなりません。

――確かに、人口の減少というのは、国家的な課題ですね。

鈴木 2060年ぐらいには9000万人近くになってしまいます。三分の一は高齢者で、1500万人は15歳以下、そうすると労働力は16歳から65歳と定義していますが、進学率の高まりで実質的に働く人は18歳からなので、元気な方は70歳ぐらいまで働くとしても4000万人を切ってしまいます。その意味では、女性ももっともっと働かなきゃいけないし、高齢者ももう少し楽に出来る形にして70歳ぐらいまで働き続けないと、医療費・年金財政が破たんしてしまいます。

重いものを持つことはお年寄りや女性には難しかったけれど、例えばサイバーダインのような補助具を着ければ30kgぐらいの物は持てるようになります。事務労働もAIがほとんどやってくれて最後のところだけ人が判断すればいいようにすればよい。そういう働き方改革も大いにやらなくてはいけないでしょう。

――総務省は2020年ではなく、2040年を施策の視座に置いていると聞いています。

鈴木 野田総務大臣は、2020年までは今の傾向でいける、問題はそれが終わって2025年に団塊世代が75歳の後期高齢者になり、それから15年後の2040年に団塊の世代がだんだん亡くなっていく、高齢者数もピークを迎えた後に減っていく、こうした事態への準備が必要だという指摘をしています。

すでに一昨年、産まれた子供の数が約99万7千人ですから、全員90歳まで生きても人口は最大9000万人にしかならない計算です。全員が結婚したとしても50万組しかできない計算なので、出生率が2になっても、100万人の単純再生産にしかならないわけです。
人口推計は短期的には変わらないので、それを前提に世の中どうあるべきかを考えましょうということです。

――趨勢的な人口減少のなかで、ICTの力はこれまで以上に注目されますね。

鈴木 政策としてはICTを使って、例えば歳をとっても一人乗りの電気自動車がスマートフォンを押せば玄関前に来て、それに乗り込んで「役場へ行って」とか「病院に行って」とか「スーパー行って」と言うと自動走行し、降りると充電スポットへ行って停まって待っていてくれる。用事を済ませて、またピッと押すと前まで来てくれて乗って行くなどして、お年寄りの社会参画の機会も確保する必要があります。
でないと、自治体財政も厳しいので、多分公共バスなどは維持が難しいのではないかと思います。小型自動走行電気自動車でお年寄りの機動性を確保して、社会参画してコミュニティを成り立たせる必要があると思います。

日本はこれまで「人口ボーナス」で伸びてきました。これからは「人口オーナス」の時代です。生産性を上げていくしかないのではないかと思います。

各省庁との連携を強めていく

――総務省も、単に狭い意味で通信、放送だけを見ていればいいのではないということですね。

鈴木 そうです。たとえば田舎も光ファイバーの普及率を上げてそれで済むというのではなく、農家が光ファイバー引いてその先にセンサーネットを付けて、農作物栽培をより効果的にするとか、コストを下げるとか、あるいは出来上がった農作物を農協を通じるだけじゃなく、ネットを使って直販でより価格を高く売って所得を増やすとか、そこまで推進できる方向に持っていく必要があるわけです。

これから始まる5Gは、人が持っているスマートフォンがより便利になるだけではなくて、IoTのセンサーとか、カメラとか、たくさんの端末をつなぐネットワークになっていきます。
そして、機械をつないで何するのか、どういう価値を生み出すのか、様々な提案を、たとえば農業対策で農林水産省、土木工事で国交省、医療・福祉で厚生労働省、教育で文部科学省と組んで、あらゆるものに働きかけて変えていく、そういうドライバー的な推進力となる役所にならなきゃいけないと思います。

――コネクティッドカーなど先端技術のところにも、総務省は力を入れていると聞いています。

鈴木 そうですね。もともと5省庁でやっています。総務省が通信系を、経済産業省は製造業を、警察が交通ルールを、建設省が道路関係で、運輸省が自動車ライセンスという形です。

建設と運輸が一緒になって国土交通省になってから、今4省庁でITS/インテリジェント・トランスポート・システムを推進しています。車がレーダーで危険物を察知する、あるいは道路にある通信装置やセンサーに反応する、右側に曲がると横断歩道を人が通行中ですとか、そういう情報をもらいながら車が自動走行する仕組みを仕上げたいと考えています。

総務省と経済産業省は審議官が交流するなどして協調しています。その協調を地域ごとに進めようということで、まず近畿の総合通信局と経済産業局が覚書を結んでIoTを進めることにしています。
続いて、関東が協力し、だんだん地域ごとに広げていきます。用語も、ICTとか、コネクティッド・インダストリーとか、コンセプトを統一して共同で進めています。

オリンピックと地方創生で必要なWi-FiとIoT

――オリンピック、パラリンピックの2020へはどういう取り組みですか。

鈴木 2020はオリンピック、パラリンピックで世界中の人に来ていただくので、それまでにそのレガシー(遺産)として残るような、いろいろな新しいICTの技術・サービスを実現することです。

一つは5Gです。従来の100倍早いネットワークでみんなが映像を撮ってどんどん送るでしょうし、たくさんの外国人が来るので言葉の壁を感じない自動翻訳を進めます。また、接続の壁を超える意味ではどこでも繋がるようにWi-Fiの整備を進めています。
最近は、インバウンドの外人がかなり田舎の方にも行くので、田舎の方もカバーしましょうと。それから、東北新幹線も山形新幹線も北海道新幹線も車内は全部Wi-Fiをやりましょうといっています。

また、情報の壁という意味では、デジタルサイネージを駅の地下とかあらゆるところに置き、外国人が情報をなかなか取れないという状況は是非変えていきます。表示言語も本人がボタンを押すと、すぐその国の言語に変わるようにします。

それと、やはり4K、8Kをそれまでに実現し普及させることです。オリンピックの時には「日本のテレビってみんな綺麗だね」という話になると思います。これらが全部実現すると、多分、今とはガラッと世の中が変わっていると思います。

――地方創生も、総務省の大きな課題の一つですね。

鈴木 先ほど言ったように、地域の農林水産業とか小売業とかにICTを使って、もう一度、産業を活性化する取り組みがコアとなります。特に農業は高齢化により、毎年何万人と農業人口が減っていきます。そういう農家が抜けたところに、ただ新しい人を入れるだけではなくて、10軒も20軒も抜けたあとに非常に生産性の高い農業を作り出すことが鍵です。

漁業も勘に頼った漁業、魚群探知機で見る漁業から、今、松島とか北海道、函館で実験していますが、海にセンサーを浮かべて潮の流れ、水温、塩分濃度、プランクトンの数などから「こういう潮の条件のときにこういう魚群が来ます」というようなことをビッグデータとAI分析を行い進めています。
ゆくゆくは魚を捕りに出たが今日は捕れなかったという漁業から脱皮し、確実に捕れる時に行くようにすると、コストはすごく安くなります。漁船の燃料費は相当大きいわけですし、夜間のイカ釣だとライトをつけているだけで燃料がどんどん減るわけですから。

――それは「農業×ICT」「漁業IoT」ですね。

鈴木 まさに「漁業IoT」「漁業×ICT」ですね。カツオの一本釣りをロボットが自動的にやるという実験も行われています。釣師20人が居たのが20本の竿が自動的にモーターで動き、船長と機関士と漁業長3人だけで、ITコントロールをするだけで済むような実験もされています。鮮度を保つための冷凍・冷蔵技術を向上させ、より高く売れるようにする取り組みも行われています。

林業でも、ドローンを飛ばして森林資源を観測して「もうこの辺は伐採期だ」とか、そういう「林業×ICT」での効率化も始まっています。
農林水産は、ICTのいわば白地ですから、改革の効果が大きいと思います。農業、漁業、林業など全部デジタルトランスフォーメーションで改革することができると思います。

――地方創生は、地方の産業の再生なしにはできませんからね。

鈴木 人口が少ないところは農林水産業が主体のところです。そういうところを活性化するのには、お店やカフェをやるのでもICTを使うことで新しい取り組みができます。地方でもベンチャーが回線さえ繋がっていれば仕事ができますという取り組みが始まっています。従来のように工業団地を作って、移住に補助金出しますではなくて、デジタルを使って働き方そのものを変えるということです。どうしても条件の悪いところは、集約してコンパクトシティのようにすることではないでしょうか。

そうすれば、田舎も補助金漬けにならないで、ちゃんと経営的に成り立つ事業が存続するのではないでしょうか。経営的に成り立つ農業、経営的に成り立つ林業、経営的に成り立つ中小企業というふうにすれば、地方も荒廃しないで暮らしていけます。

鳥獣被害対策は、従来は電線を張って電気を流していて、それで親子が感電死した例もありました。最近はIoTを使ってセンサーを付け、鳥獣のデータを取り、捕獲し、ジビエで販売するという活動が起きています。その仕組みは農林省の支援で100ヶ所以上に設置されています。

5GとWi-Fiは共に発展すると期待

――5Gをはじめモバイル/ワイヤレス分野における日本の取り組みは世界的にも注目を集めています。どういう采配を取るのでしょうか。

鈴木 モバイルのトラフィックがどんどん増えており、4K映像も流れるようになってきたので、新しい電波を割り当てないと使えなくなっています。
まず第4世代のLTEアドバンスに追加割り当てをします。募集を1月末から始めていますが、3月までには40MHz×4枠で事業者を決めます。
1.7GHz帯が2枠、3.4GHz帯が2枠、携帯電話事業者の認定を行います。既存事業者、新規参入事業者とも、公正に適切に審査を行い、日本の携帯電話市場がさらに活性化しユーザー利便が高まるようにしたいと考えています。

あとは第5世代、5Gです。これは来年の秋に「WRC-19」で、最終的な周波数帯と技術基準が確定しますが、それを待っているとオリンピックに間に合わないので、WRC19に提案する周波数帯、技術基準は日本は見切り発車し、来年中なるべく早い段階で事業者の認定をして、オリンピックに向かわせたいと考えています。

5Gはとりあえず来年、第1回目の事業者を認定しますが、WRCで決まる周波数帯はいくつか幅があるでしょうから、そんなに間をおかずに、利用可能になった周波数が決まったところで、引き続き2回目、3回目の割り当てになると思います。

――5Gは新たなネットワークとして、これまでとはユースケースも大分、異なるといわれています。

鈴木 そうです。IoT用途でみても、従来の携帯電話と違い5Gでは膨大な数のセンサーが繋がるネットワークになります。また、超低遅延で信頼性の高いネットワークになりますから自動走行、遠隔操作をはじめいろいろな産業分野で使われるようになってくると思います。これまでとは違って、多様なユースケースを持つ、新しいネットワークが登場することになります。

――5G時代を迎え、Wi-Fiの位置づけはどうなると見ていますか。

鈴木 Wi-Fiの役割が減じることはありません。2020でも、地方創生でも、Wi-Fiは不可欠なネットワークになっていますが、それはさらに加速すると思います。今のインバウンドでも、ますます増えている観光客の若い人達はやっぱりWi-Fiを使います。これは非常に重要なことです。我々だって外国へ行ってローミングをもろにやったら、一日何千円もかかりますから。やはり携帯電話ネットワークとWi-Fiは、両方補完的な感じでいくと確信しています。

海外からはいろいろな需要の方がいらっしゃるので、それに対応するためにはサービスも1個じゃなくって、やっぱり複数必要で、その中のメジャーな1個がWi-Fiだと思います。
その意味では、地方でも観光に熱心でWi-Fiを整備しているので是非うちに旅行に来て欲しいという所と、そういう考えに至らない所では随分差がついてくると思います。やる気のある所にはどんどん整備をしていきたいと思います。

Wi-Fiは多様な発展、Wi-Bizには高い期待

――それには、エリアオーナーWi-Fiの取り組みと自治体などの取り組みと両方必要ですね。

鈴木 私は両方とも必要で、並存するのではないかと思います。設置者が明確で利用している人も明確ですと、セキュリティが高まります。
それは、スタバユーザーだったり、マックユーザーだったりで、安心安全です。あるいはどこかの観光地の観光地アプリに登録したりします。
ただ、余りそれがバラバラでどこかに行く度に登録するとなると大変なので、共通化して一回サインインしたら、日本はだいたいどこでも繋がりますというものが必要です。それらと、思いっきりローカルなものとの並存でも構わないと思います。

今年は2840万人ぐらいの外国人がインバウンドで来ましたが、オリンピックまでには4000万人に、2030年には6000万人にという目標値を政府が掲げています。
だんだん京都、大阪、奈良、東京だけでなくて、田舎にどんどん人が流れ始めています。田舎に来た外国人が携帯電話は繋がるが料金高い、どこにもWi-Fiがあるというのでなければ不満を感じるでしょう。
その意味では、田舎の観光地でもWi-Fiを整備する需要が出て来ると思います。そこでの、ツイッターとかインスタグラムを見て次の外国人が来るわけで、そういうところにWi-Fiを整備しておくことは、次の観光客を呼んでお金を落としてもらうためにも重要です。「観光産業×ICT」ということですね。

――最後に、無線LANビジネス推進連絡会(Wi-Biz)の役割と期待をどうみていますか。

鈴木 キャリアが自分のお客を囲うために整備するWi-Fiもありますし、特定の役場とか事業者が囲い込みとか誘致でやるWi-Fiもありますが、それらはまだバラバラの動きの段位です。一定のエリアごとに整備されて、大抵のところでは繋がるという状態にWi-Fiもしないと、みんなが不便を感じています。全体を調整して整備をする、シングルサインオンみたいなところの音頭とりをしていただけるということになると、やっぱりWi-Bizは大変重要な役割を担っていくと思います。

固定網があって移動網があって、そこにもう一つのインフラとしてWi-Fiはだんだん普及するなかで、位置付けを上げてきているのではないかと思います。
固定網も移動網も通信事業者が加入者から相当の料金を徴収するわけですが、Wi-Fiは設置者にコストを負担していただいて、実際のユーザーは無料かそれに近い料金で使ってもらうわけで、ビジネスモデルが明らかに異なります。
是非、このビジネスモデルのエコシステムでよいサービスを展開して成果を上げて貰えればと思っています。


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