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電波の話 第6回
今に生きるPHSの周波数の使い方、そのユニークさ

無線LANビジネス推進連絡会会長 小林忠男

今回は、1995年7月にサービスがスタートし、一時は「ピッチ」の愛称でブームになったPHS(パーソナル・ハンディフォン・システム)の周波数の使い方について考えてみます。

携帯電話を上回る斬新なサービス

PHSは、サービス開始から急速に契約者を獲得し大きなブームになりましたが、同じように契約者が増え始めた携帯電話とガチンコ勝負になり、エリア的に劣るPHSの契約者は急速に減り、ビジネス的には必ずしも成功しませんでした。

PHSの周波数は1.9GHz帯のため、プラチナバンドと呼ばれる900MHz帯に比べると電波の到達距離が短く、通話できるエリアが携帯電話より狭いために使えないという評判が立ちサービスとしてうまくいきませんでした。
しかし、PHSにはその当時としては先進的なサービスとして、

  1. 固定電話並みの通話品質を提供可能
  2. 携帯電話端末に比べてサービス開始当時は小型軽量の端末を実現
  3. 携帯電話に比べ当時としては高速の32kbpsデータ通信サービスを提供
  4. 家ではコードレス端末として屋外では公衆PHSサービスの端末として一台の端末が共用することが可能

という特長を有していました。

PHSのそもそものコンセプトは、図1に示すように「コードレス、街へ出る」というものでした。

 

家や事業所において当時普及し始めたコードレス電話の端末として、また屋外では公衆PHSサービスの端末として、一台の端末が使えるというユニークなものでした。
家では光の先のアクセスポイントにつながり、屋外ではコンビニや駅の公衆無線LANにつながる今のWi-Fiとよく似ています。

このPHSの周波数の使い方は今でもなかなか先見性のある公平な使い方をしています。

周波数割り当てのユニークさ

図2はPHSで使用可能な周波数のイメージ図です。

 

PHSでは、公衆通信用の周波数と家や事業所における自営通信用の周波数とに分かれています。

この周波数割当によって、家や事業所では自営用の周波数を使うことによってコードレス電話として使うことが可能になり、自営用PHS周波数はアンライセンスのため誰でも家電量販店からアクセスポイントと端末を買ってくればすぐに家の中をワイヤレスにすることが可能です。これはWi-Fiと同じですね。

一方、サービス開始時に屋外の公衆PHSサービスを提供したNTTパーソナル、アステル、DDIポケットの3社は公衆用周波数を使うことのできるPHS事業者として認定され、この周波数を使うことが許可されました。

面白いのは、公衆通信用の周波数が不足した時は自営通信用の周波数を使うことが出来ることになっていたことです。しかし、逆は許されず、一方向だけになっています。
それによって、図2に示すように約40チャネルの公衆通信用と約35チャネルの自営・公衆通信用周波数が設定されています。

PHSは当時のNTT系、アステル系、DDI系の3キャリアに対して1チャネルずつ3チャネルの公衆制御用周波数と2チャネルの自営制御用周波数が割り当てられています。

PHSは各キャリアがそれぞれに固定的に割当てられた制御チャネルを使って自律的に通信に利用する周波数を決めます。その際、通信に利用する周波数は各キャリアに固定的に割り当てられていません。
通信用の周波数は3キャリア共通になっていて、各キャリアの契約者数に応じて固定的ではなく柔軟に使えるようになっています。
契約者数によって公衆用の40チャネルを柔軟に使うことが出来るわけです。

この意味は、昔のトラヒック理論を思い出すと、呼損率が0.01の場合の2回線の呼量は、0.153アーランになります。2回線を固定的に3キャリアで利用した場合の、総呼量は、0.153*3=0.459アーランになります。

一方、6回線を柔軟に利用できる場合の総呼量は、1.91アーランになります。

各キャリアが固定的に周波数を利用する場合に比べて、1.91/0.459=4.1となり共通の通信周波数を共用したほうが多くの通話を処理することが可能になります。

自営空間と公衆空間の最適化を可能に

では、PHSの周波数の使い方のユニークさをまとめてみます。

  1. PHSの全周波数帯が自営と公衆に分かれていて、自営用はアンライセンスで誰でも自由に使え、公衆用はライセンスで免許を受けたキャリアだけが使用可能
  2. 自営周波数を公衆通信に使用することが可能
  3. 制御周波数と通信周波数が分かれていて、通信周波数は固定割当てではなく各制御周波数共通になっていて、通話容量を増やすことが出来る
  4. 家や事業所のプライベート空間=自営空間は受益者負担でワイヤレス化を実現し、屋外のパブリック空間=公衆空間は選ばれたキャリアが不特定多数のユーザーに公衆通信サービスを提供
  5. 一台の端末が自営用、公衆用端末になることが可能

 

これからのワイヤレス新時代において、ますます周波数が不足し、また高い周波数を使用するため今までに比べて膨大な数の屋内用アクセスポイントを設置する必要が生じています。こうした場合、家や事業所のPHSのエリア構築は自営空間とし受益者負担とするというPHSの考えは一考に値するのではないかと思います。

さらには、これから本格化するIoT時代においては様々な用途に対応するため、キャリアが構築するワイヤレスネットワークと各オーナーが構築するプライベートなワイヤレスネットワークの両方が必要になると考えられます。

多くの人たちが自由にワイヤレスネットワークをその目的に応じて構築することが出来、かつ公衆ネットワークに同じ一つの端末で接続することが出来ることは極めて効率的で先進的な周波数の使い方ではないかと思います。

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