特別報告
2017 Tokyo Wi-Fi Summit 講演
「ワイヤレス・Wi-Fi・光の融合」

日本電信電話 取締役 新ビジネス推進室長 栗山浩樹 氏

7月25日に開催されました「2017 Tokyo Wi-Fi Summit」において、日本電信電話 取締役 新ビジネス推進室長 栗山浩樹氏より講演が行われました。
「ワイヤレス・Wi-Fi・光の融合」と題した講演の内容を紹介します。

Wi-Fiは光とモバイルの間を埋める形で発展

あらゆるモノが今、デジタルネットワークに繋がっています。

キャリアのネットワークは二十世紀の最後の四半世紀にデジタル化が進みました。そして、国内ネットワークの集合体であったものが、インターネットの出現によりグローバル化されました。
一方、Wi-Fiはローカルな需要を丁寧に拾い上げて発展を遂げたネットワークであり、ある意味ではグローバルとローカルがここで融合してきたと言えます。

Wi-Fiは、駅・空港・スタジアムなど様々な場所で力を発揮しており、B2B2Cのデジタルマーケティングの手段になっています。
また、マシンセントリックな分野では、稲作におけるドローンの活用などに代表される一次産業におけるモニタリングや、製造業・インフラのモニタリング、医療や各種サービス産業など様々な分野でB2B2Mのデジタルオペレーションで活用されています。

数字で見てみると国内のFTTH(Fiber To The Home)が3000万を超え、モバイルが1億3000万に達し、間を埋める形でWi-Fiが5000万を誇っています。
今後のトレンドとしては、現在のIoT、AIの発展に加え、2020年に向けて5Gが出てきます。
また、情報処理の分野では、クァンタム(量子)コンピュータが、そう遠くない将来実現されると見ています。

社会構造の変化と「スマートⅩ」による課題解決

こうしたなかで、社会の構造的変化や、それに伴う問題を解決する手段の1つがWi-Fiであると考えています。

1つ目の問題は、減少・高齢化する人口問題です。世界的に見ると、これからも人口が増加しますが、途上国の大きな国においても2020年代からフェージングが急速に進みます。日本は既に人口減少に突入し、人口ピラミッドで見れば圧倒的な高齢化社会で、世界的なフロントランナーです。

もう一つのフロントランナーが都市化です。今世紀に入って世界の人口の半分が都市に住むようになっており、これは歴史的なターニングポイントだと考えています。

その中で、東京圏は首都圏として世界最大となる3500万人もの人口を誇っています。
これは、世界の他の首都圏人口(デリーで2200万人、サンパウロ・ムンバイが2000万人、メキシコシティ・ニューヨークで1900万人)を遥かに凌駕しています。

通勤電車の混雑度は昔の300%程ではないですが、今でも200%やそれに近い数字になっています。
東京の通勤人口は700万ですが、2020東京オリンピック・パラリンピックの2ヶ月間に、観客だけで1000万人が加わることになるため、いま政府をあげてテレワークデーをセットするなど働き方改革をめざしたり、2020年に向け交通や輸送の円滑化会議をセットするなどの取り組みを進めています。

 

これは、都市の歴史で見ると、まったく新しい転換点に立ち至ったということになります。

農業革命が起こり3900年前にモヘンジョダロで都市が誕生したといわれていますが、その後18世紀半ばから19世紀にかけて産業革命が起こり、都市化が猛烈な勢いで加速しました。

そして今世紀、我々がめざさなければならないのは、量・規模から質・調和といった都市のQoL(Quality of Life)であり、それを人口減少、少子高齢化、世界最大の人口を抱える東京圏で、いかに実現できるかが問われています。

最近、デジタル・トランスフォーメーションとよく言われますが、そのキーワードの1つがスマートです。
スマートの次にくるⅩは、モビリティ、ヘルスケア、トラベルなど様々な産業やサービスの名称があてられ、ICTでスマート化されることで、社会的・経済的課題を解決することを表します。

NTTグループにおける変革とWi-Fiへの取組み

我々NTTグループも自らを変革しようとしています。

2000年における我々の収入の7割が固定と移動体の音声通話でした。もっと遡ると、電気通信市場が自由化された時のグループ収入5兆円の8割が音声通話でした。しかし、我々はこの17年間で大きな中期経営戦略を3回策定し、変革を進めてきました。

2004年には固定と移動体のブロードバンド化に大きく舵を切り、2008年には海外事業をもう一度見直し、通信ではなく情報システム事業で海外展開を進めました。
そして2012年には事業の柱にクラウドを据えるとともに、固定や移動体に加え、Wi-Fiが重要なネットワークアクセスの手段になるとの認識から「Wi-Fiは第3のアクセスである」と唱えました。

これらの取り組みで、我々の収入構造も大きく変化し、2015年には音声収入が全体の2割を切り、データ通信とシステムインテグレーションが8割近くを占めるようになりました。
そして、この比率はIoTやAIという流れの中で、さらに拡大させて行きたいと考えています。

NTTはNippon Telegraph and Telecommunicationの略ですが、海外向けにはNext Value Partner for Transformation by Trusted Solution:信頼できるソリューションでビジネスモデルやライフスタイルの変革を手伝うバリューパートナーでありたいと常に申し上げています。

Wi-Fiに関する取組みとしては、グループのWi-Fiのカバレッジを見ると、人口が稠密で人が移動するエリアについては、この4年間で一気にカバーしてきました。
それまで日本では、モバイルブロードバンドの整備が進み、カバレッジが高かった反面、外国人観光客が相対的に少なく、企業側が必ずしもWi-Fiに魅力に感じていなかったのですが、この4年で状況が一気に変わりました。

2014年の外国人観光客数で見ると、フランス8400万人、アメリカ7400万人、スペイン6500万人に比べ日本は1300万人と明らかに少ない状況でしたが、政府や自治体、民間がこの問題に精力的に取り組んだ結果、マレーシア2700万人、タイ2500万人には及ばないものの、昨年度に2400万人まで増えました。
この中でWi-Fiは非常に重要な問題として取り組まれ、今後も2020年に向けて東京の湾岸エリアなどで通信環境の整備が進みます。

 

また、Wi-Fiは単に通信サービスの面的拡大だけでなく、情報サービスの牽引役になっています。

例えば福岡で始め、九州全域に広まったWi-Fiベースの観光情報サービスは、Wi-Fiを使った滞留ヒートマップや動線分析など、観光の付加価値化に役立つサービスとして提供されています。

また、スポーツビジネスに話を移すと、米国は日本の人口比で2.5倍ですが、プロスポーツのチケット収入規模は10倍になっており、一人当たりでは4倍もの差になっています。
少なくとも、この差が半分になる可能性はあり、政府も我々もスポーツを成長産業としてとらえる中、Wi-Fiは大きな手段になると考えています。

米国では、アリーナでSNSを使ったB2B2Cのデジタルマーケティングが始まっています。
例えば、観客がSNSでアップした動画を編集し、デジタル広告を付けて流すといったことが行われており、SNSのコンテンツマッシュアップとデジタル広告がセットになって提供されています。言い換えるとファンエンゲージメントとマネタイズの仕組みがセットになっているのです。

そして、我々もスマートスタジアムでのデジタルマーケティングに取組んでいます。
昨年、我々はJリーグサッカーチームのホームスタジアムに、Wi-Fiを高密度に敷設し、観客への情報サービスや映像サービスの提供に加え、スタジアム中でのサービス向上としてフードオーダーやフードデリバリーにトライしました。

また、Jリーグとは10年間にわたる提携をしており、宮城と鹿島にあるスタジアムのスマート化も行いました。
また我々のグループ会社は、スペインのサッカーリーグであるラ・リーガからセキュリティ系の仕事を請けており、この分野で国際的に取り組んでいます。

ファイバ・Wi-Fi・モバイルの融合

これまで説明したように、ファイバ、Wi-Fi、モバイルについては、使われ方が融合してきています。

ドコモが「DAZN for docomo」というブランドで提供しているスポーツコンテンツデリバリサービスでは、スタジアム内は高密度Wi-Fiで通信や情報サービスを享受します。

一方、スタジアム外のコンシューマの方は、モバイルを使って様々な映像サービスを享受します。
このように、サービス全体をトータルで設計しないと企業としてはニーズに十分応えられなくなってきています。

 

カンブリア爆発の例では、5億年前に生物の種類が数十種から1万を超えたと言われています。
そのドライバーが複雑で高度な多細胞器官である目の誕生であり、これが生物の多様性を急速に進めました。

現在の情報通信の世界ではIoTがこれに当たり、多種多様なデバイスがネットワークに大量に接続されるようになりました。

我々の取組みの一例として、グループ企業が海外でスポーツのスマート化をサポートしている例を紹介します。

ツール・ド・フランスでは、GPS装置を自転車のサドルの下に取り付け、選手の位置やスピード、車輪の回転数など様々な情報を放送事業者へ提供したり、Web上でも配信しました。
インディ500では、レーサにウェアラブルデバイスを付け、脈拍や疲労度等をチームに伝えるという実証実験を行っています。

我々は様々なデバイスや技術を使いながら、スマートな社会を作って行きたいと考えています。

社会的課題への対応/2020年とその先に向けて

その中でデータの信託「デジタル・トラスト」という概念が重要になってきます。
社会課題や経済課題を解決するため、地方自治体やコミュニティがIoTで情報を集め、オープンデータで諸産業に開示し価値を獲得してもらい、様々な付加価値としてコミュニティにフィードバックする、このサイクルを上手く回して行く必要があります。

 

これに関して、我々もサポートに入り、札幌市が中心となって取り組んでいる例を紹介します。

札幌市では1972年に冬季オリンピック・パラリンピックが開催され、その際、地下鉄や地下街の整備などハード面でのインフラ整備が中心に行われました。
現在の札幌市の人口は200万人で、行政サービスの持続的なマネジメントが大きな課題となっています。
また、札幌市は北海道の人口の4割を抱え、北海道の地域経済のエンジンとして機能し続ける必要があります。
こうした中で、札幌市はICTを使ったインフラのマネジメントに取り組んでいます。
また、単にゴミの収集や照明、エネルギー単独の取組みではなく、スポーツとツーリズム、交通と雪対策、健康と子育てなど、中期的レンジで包括的な分野でスマートシティ化に取り組んでいます。

雪について言えば、人口200万人規模の都市で、あれだけの積雪量があるのは世界中でも札幌市だけであり、年間200億円の予算を除雪に使っているため、効率化や効果的運用において情報通信が貢献できる可能性は高いと思っています。

2020年のレガシーとしては、これまで説明したインフラや産業に対するスマートと人に対するユニバーサルデザインの2つがキーワードになります。

日本は少子高齢化が進行している典型的な成熟国家であり、その中でオリンピックとパラリンピックを東京で2回も同時開催するということは象徴的な出来事だと思います。

政府や経済界をあげ、ユニバーサルデザインのマインドや仕組みをスマートの中に取り込むことが大きな柱で、そういう意味では「Internet of Things」というより「Internet of Human Story」が、我々がこれからめざす方向だと考えています。